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対談「食こそ生命の源、医の視点を料理に」

医療と食の充実推進協議会が平成18年5月1日に開いた「医療と食のフォーラムin Toyama」に先立ち、協議会代表幹事で富山大学医学部第二外科の塚田一博教授と近茶流宗家・柳原料理教室主宰の柳原一成氏が、それぞれの立場から医と食の充実をテーマに対談した。両氏はフォーラムの医療部門、食部門の監修を担当しており、「食べることは、生きること」という共通の思いを語り合った。

対談 

近茶流宗家・柳原料理教室主宰柳原 一成 氏

  • やなぎはら・かずなり
  • 江戸懐石の近茶流宗家
  • 柳原料理教室(東京都港区赤坂)を主宰する
  • 1942(昭和17)年、先代宗家・柳原敏雄氏の長男として東京に生まれる
  • 東京農大農学部卒
  • 柳原料理教室で日本料理の指導にあたる一方、
  • 食材そのものの研究にも力を注いでいる
  • 現在、東京農大客員教授
  • NHK「きょうの料理」の講師を務める



  • 柳原氏
  •  「食」は生きることです。人は生まれると母乳を飲み、最後は死に水を取ってもらい一生を終える。母乳を与える時に、子どもの口元に親が乳房を持っていくのは人間だけです。「食」は、そこから始まります。だからこそ、子どもの時は親が「食」を管理して子どもを育て、好き嫌いなく、まんべんなく食べる食習慣を子どもに学ばせる必要があるのではないでしょうか。学ばせて初めて育っていくと思います。子どもの時に食べたもの、食べ方が、その人の一生を決めていきます。ものの考え方や感性までも培われていくのです。
  • 塚田氏
  • 人が生きていく条件は、どんどんよくなっています。その一方で、自然に対する抵抗力や免疫力は落ちています。人の体で面白いところは、危険なものを体に備えているところですね。たとえば腸内細菌です。その代表が大腸菌ですが、これは、ばい菌ですから、血液や腹膜の中に入ったりすると重い病気になるわけですが、一方で体に入ってきた栄養素を分解吸収するのに必要です。もちろん、増えすぎては困ります。日本食にふんだんに入っている食物繊維を十分に取ることで、コントロールしやすくなります。二日酔いの時にみそ汁がいいのには、理由があります。胃から食物の排泄(はいせつ)をうながし、もたれ感をなくします。また、偏った食事は時々、病気の経過を極端に変化させます。たとえば、小学生が盲腸虫垂炎、いわゆる盲腸になって手術しました。もう退院してもよいころに、新たな腹膜炎が起こった例や、化膿(かのう)した場所を切開して抗生物質を投与しても膿瘍(のうよう)がなかなか治らない例などに、偏食、特にまったくご飯を食べない人がいるのです。
  • 柳原氏
  • 水と安全がただの時代が終わったように、食も必ずしも安全ではありません。食品添加物の安全性など、現代人の食生活を見直していかないと、長寿国がどうなるか分かりません。食は食、医学は医学と異なった分野ではありますが、人を中心に考えてみると、食と医は同じ方向を目指す大切な「同志」です。病気に関して、食べ物で随分、予防できる部分はあるはずですし、病気になってからでは失うことも多いはずです。今日のお話では、病気になってからでも十分「食」に気を配ることが重要で、治療にも一役買えるかもしれませんね。
  • 塚田氏
  • 5月1日の医療と食のフォーラムでは、「食」がいかに自分の命を守ることになるかを、皆さんに分かっていただけるのではないかと楽しみにしております。近頃、食と健康という言葉に非常に関心が高いようですが、私は、医療を受ける人、つまり病気になった人は、治療を受けると同時に、バランスのよい食事が大切であると考えます。そこで、長年にわたり食文化を研究なさっている柳原先生にお話をうかがいたいと思います。難治であった病気が偏食的な食事を改善することで病状がよくなってきたり、術後に何とか工夫し食事を食べていただくことで病気の進行を抑えたりと、主に消化器の病気を診ている私は最近、本当に「食」の重要性を感じます。柳原先生は「食」、特に日本食の文化、歴史のなかでは、医療や健康を直接意識されないと思いますが、いかがですか。
  • 柳原氏
  • 料理と命は同時進行ですが、料理を薬としてだけとらえるのには賛成できません。しかし、結果的に「くすり」でもあったということが理想なのではないでしょうか。苦い薬を飲むように顔をしかめて食べるのではなく、楽しい世界の中に食事があり、その結果、「食」が健康につながります。何でも手に入る飽食の時代、母親が子どもにお金を渡して「塾に行く前に何か買って食べなさい」と言ったとします。それでは子どもは自分の好きなものしか食べません。刺激の強いもの、味の個性の強いものばかり食べてしまいがちです。
  • 塚田氏
  • 消化器の手術の後、通常はおもゆ、おかゆと順を追って日常的な食生活に戻していくのですが、それでも術後は消化器の機能が落ちていますから、点滴でしばらく管理することになります。切除した後の残った胃や腸で消化吸収させるために、成分栄養、いわゆる便の出る必要のない「宇宙食」が開発され、医療でも盛んに使われています。しかし、成分栄養だけでは腸内細菌が変化したり、腸の働きが必要なくなったりします。単純に腸の負担を軽くするだけでは良くないことも分かってきて、ある程度、腸を働かせる必要のある日本食が見直されていますが、どのように感じられますか。
  • 柳原氏
  • 最近の報道では、大腸がんが増加していると聞いています。食生活が変わったことは重要だと思います。日本食から洋食への変化もありますし、日本食でも食物の保存方法や作り方も違ってきています。郷土食も昔ほど食べなくなりました。情報量が多くなったせいか、日本全体が、どこでも同じような食生活になっています。食文化が長期間に変化するのは自然なことです。しかし、戦後は急激に変わり過ぎました。江戸時代、長崎に入った外国の料理は、江戸に届くまでに長い時間がかかりました。うまく日本になじんで、ゆっくりと江戸に伝わってきました。しかし、今はメディアを通じて一気に広まります。消化、吸収の機能が追いつくまでに、体の方が準備できる余裕はありません。
  • 塚田氏
  • 確かに食事が急に西洋化しても、腸の長さなどは急には短くなりません。対応できない人には負担がかかり、病気につながるかもしれません。ある土地で生まれた人が、その土地で地産地消することは、ある意味で体に合いやすいと言えるのでしょう。ところで、柳原先生は家庭の「食」が大切であるとおっしゃっていますね。
  • 柳原氏
  • 食事を家で作ることを自慢できる雰囲気ができればいいと思います。今のお母さんは、食事を家でつくって食べる「お家(うち)ごはん」に手間を惜しむ傾向にあります。家でつくる食事はクリエイティブなものなんですがね。子どもに食生活の大切さを教えたいと思います。現在は核家族ですから、祖父母から学ぶ機会も限られています。その代わりを、学校教育だけに担わせるのは矛盾を感じます。家庭が主体であるはずです。食に関して、面白おかしく扱っているメディアがありますが、あまりいいものではありません。それを見て育った子どもは、食を雑に扱います。食とは、何かの犠牲の上に成り立っているものなのです。ものの命を絶って、自分の命として、食べ物をいただく。そのような神聖さがあると思います。
  • 塚田氏
  • 「食」の重みや歴史を、どのように伝えていくかは非常に難しい問題ですね。食べる前に重みや歴史を考えることが必要です。また、食べることが食べた人にどのように影響するか、特に私は病人にどう影響するかを考えます。
  • 柳原氏
  • 日本は世界中の料理を知っている国ですが、自国の料理はどういうわけか遠くなっていきます。日本の料理は、安全で体にもいいと思いますがね。
  • 塚田氏
  • 医療では、当然ですが科学的根拠は大変重要視されます。「食」は重要ですが、簡単にこれがいいとか、これはだめなどとは言えません。伝統的な日本食がどれほどいいか、どのようにいいかを、いろいろな角度から見せていただきたいと思っています。


富山大学附属病院 第二外科 診療部門長 塚田 一博 氏

  • つかだ・かずひろ
  • 1950(昭和25)年栃木市生まれ
  • 75年新潟大医学部卒、同大助手、講師、
  • 米国のピッツバーグ大留学を経て
  • 97年富山医科薬科大学(現富山大)医学部外科第2講座教授
  • 同大附属病院の副病院長、医療安全管理室長などを経て現在栄養部長
  • 専門は消化器外科学、肝胆膵、門脈、移植外科学
  • 日本外科学会、日本消化器外科学会などの指導医、評議員を務める

制作支援:北國・富山新聞社