富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」
第1回・乳がん 実施概要


第1回・乳がん
 富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」
第1回は、平成18年4月16日、 「乳がん」をテーマに、富山市大手町の富山市民プラザで開催。参加者は検診や治療の最新技術、再発予防に効果的な食事について学んだ。 8月には、「大腸がん」をテーマに第2回の講座を開催予定で、がんの最新情報を発信する場として内容を充実させていきたい。



○講演
■済生会富山病院外科部長 島多勝夫氏
 「もっと知ろう、乳がんのこと」 働き盛りで発症、危険に目を
 がんの罹患率(りかんりつ)(病気を発症する確率)において、女性の乳がんの罹患率は1995(平成7)年を境にトップとなり、 将来的にもこのまま推移すると思われる。男性の場合、前立腺がんの罹患率が著しく伸びているが、死亡率は高くはない。 それに比べ、乳がんは死亡率が25%と4人に1人が死に至る計算になり、その危険性にもっと目を向ける必要がある。
 乳がん検診率にも注目したい。富山県はマンモグラフィーを2001年度から積極的に取り入れて乳がん検診率の向上に努め、03年度は全国一位の検診率だった。 しかし、全国で考えると同年度は3%であり、60〜70%の欧米に遠く及ばないのが実情だ。
 乳がんの死亡率は1990年以降、欧米は減少傾向であるのに対し、日本は増加している。 欧米の高い検診率が死亡率減少の一助となっていることは確かであり、日本もまずは検診率の向上を目指したい。
 また、乳がん以外のがんは、高齢になるにつれて死亡率が上昇しているが、乳がんだけは40歳から60歳代の比較的若い世代で高くなっている。 まだ働き盛りの世代だけに大きな問題だ。
 乳がんの発症を予防するには、喫煙を控えたりストレスをためないなど「今できること」を心がけたうえで、積極的に検診を受けてもらいたい。
島多勝夫
 しまだ・かつお
 1958(昭和33)年小松市生まれ
 85年富山医薬大(現富大)医学部卒
 富山医薬大助手を経て97年から済生会富山病院に勤務し、
 現在外科部長
 日本乳癌学会乳腺専門医
 日本外科学会指導医



■富山大学医学部第二外科講師、長田拓哉氏
 「乳がんと栄養−おいしく食べて元気になる−」 豆類など摂取、食生活改善を
 食生活を見直すことが、乳がんの発症予防にも効果的であることを、いくつかの事例を挙げて紹介したい。
 米国の女性看護師約10万人の追跡調査では、動物性脂肪を多く摂取すると乳がんを発症する危険性が高くなっている。 日本人女性約2万2千人の調査では、大豆や豆製品を多く摂取すると危険性は低下した。
 これらは、マクロビオティック(日常生活を健康に生きる方法)の概念を念頭に置いた食生活の改善が、乳がんの予防に効果があることを示しているといえる。
 栄養面でマクロビオティックの概念を具体的に挙げてみると、月に数回食べると良いものは卵や肉、週に数回は魚や果物、毎日となると豆類や野菜、海藻類などである。
 もちろん、乳がん治療には外科手術やホルモン療法、化学療法などさまざまな方法があり、いずれも正しい指針に基づいた治療が行われることが大切なことはいうまでもない。 そのうえで、家庭での調理法の工夫で食生活の改善を図ることを心がけたい。
 食生活を見直すといっても、特別なことをする必要はない。豆製品など日本型の食事を取り入れ、無理せずに各家庭に合った料理法を考えてほしい。 女性だけでなく、「家族みんなで健康になる」という意識を持ち、肩ひじ張らずに行うことで長続きするだろう。
長田拓哉氏
 ながた・たくや
 1964(昭和39)年金沢市生まれ
 91年富山医薬大(現富大)医学部卒
 98年同大助手を経て現在同大外科学第二講座講師
 日本外科学会
 日本免疫学会などに所属




■聖路加国際病院乳腺外科部長、中村清吾氏
 「エビデンスに基づく乳がんの診断と治療2006」 医師と相談、治療法考えて
 乳がんの手術は、かつては乳房と一緒に脇の下にあるリンパ節などを切除する方法が中心だった。 しかし、現在は乳房の一部やがんの部分だけを切除する「乳房温存手術」が全国的に広がっており、聖路加国際病院では昨年、8割がこの手術を採用した。
 乳がんが顕微鏡で正確に観察できるようになったのは最近のことで、それによって治療法も広がってきた。 放射線療法やホルモン療法、抗がん剤による治療など、医師とよく相談したうえで、各人に合った治療を進めることを考えてほしい。
 がん細胞は30回分裂を繰り返すと、しこりが1センチ程度の大きさになる。1回の分裂に90日かかるとすると、30回では2,700日、約8年間の計算になる。 技術の進歩により診断画像でがん細胞を見つけやすくなったとはいえ、がん細胞が成長するまでに、長い潜伏期間があることを念頭に置いておきたい。
 また、がん細胞はリンパ節や血流に乗って、乳房から離れたところに転移することがある。 その場合は乳房近くを治療したとしても、転移した先にまかれた「芽」を摘み取らなければ、再発する危険性がある。
 そのような症状の早期発見に努める意味からも、検診をこまめに受けてほしい。治療の副作用や限界など医師から十分な説明を受けたうえで、治療法を考えてほしい。
中村清吾氏
 なかむら・せいご
 1956(昭和35)年東京都生まれ
 82年千葉大医学部卒
 03年に聖路加国際病院外科医長
 05年同病院乳腺外科部長
 ブレストセンター長
 日本乳癌学会評議員
 日本乳癌学会乳腺専門医


○質問コーナー
市民公開講座では、会場からのアンケートをもとに、富山大学医学部外科学第二講座教授の塚田一博氏が質問者となり、講師3氏と質疑応答を行った。 乳がん検診の積極的な利用や食生活面からの予防など、来場者は幅広い議論を通じて乳がんに関する理解を深めた。

塚田氏 乳がん検診の大切さを紹介してほしい。
長田氏 しこりが見つかった場合、乳がんを疑うかもしれないが、心配は一人で抱え込まずに
     近くの医療機関で検診を受けてほしい。最近はマンモグラフィーや超音波診断など
     検査、治療法も多様になり、さまざまな治療を組み合わせることで効果を上げられる。
●検診が予防の一歩
中村氏 しこりの大きさは放っておいたら500円玉(直径3センチ弱)程度にまでなることもある。
     触っても分からないようなしこりもマンモグラフィーで感知することができ、積極的に
     検診を受けることが予防の第一歩だ。
島多氏 乳がん検診率は、欧米の7割前後に対して日本では3%程度。「検診を積極的に利用
     する」という認識を持つことが大切ではないか。
塚田氏 乳がんは遺伝と関係するのか。
長田氏 乳がん自体が遺伝することはない。ただ、乳がんになりやすい体質は遺伝するという
     報告がある。
中村氏 乳がんを発症した人が家族に3人以上いたり、40歳未満で発症した家族がいる場合
     などは注意し、よりこまめに検診する必要があるだろう。
塚田氏 発症を予防するために日常から気を付けることや、今後の乳がん治療のあり方について
     聞きたい。
●食で治療サポート
長田氏 乳がんの発症を食生活の改善から予防する考えは、大切なことだが、あくまで治療の
     サポートと位置づけてほしい。栄養面から予防に努めることは、生活にメリハリを
     つけることにもつながる。
中村氏 日本は乳がんの治療をこれまで独自に行ってきた傾向がある。そうではなく、多くの国が
     一緒になって臨床試験を行うなど「国際的な協調」のなかで、より良い治療法を推進
     していくことが求められる。

塚田一博氏
 塚田一博氏(つかだ・かずひろ)
 1950(昭和25)年栃木県生まれ
 75年新潟大医学部卒
 同大助手、講師を経て
 97年富山医薬大(現富大)医学部外科学第二講座教授
 専門は消化器外科学
 肝胆膵外科学



特設ブース・紹介
●〔あけぼの会〕 「母の日」の活動PR
あけぼの会  あけぼの会は乳がんを体験した患者や医療関係者などで構成される全国組織で、会員は4千人を超える。 北陸支部の富山県世話人、谷井笑子さんらは会場で会の案内や月1回の自己診断を徹底するためのパンフレットなどを配布した。
 北陸支部では「おしゃべりひーりんぐ」と題した会合を、奇数月の第3日曜日は富山市のサンフォルテ、 偶数月の第3日曜日は金沢市の石川県NPO活動支援センターで開催、情報交換や啓発に努めている。
問い合わせは谷井さん=076(437)5926=まで。

●〔ジョンソン・エンド・ジョンソン〕 モデルでしこり実感
ジョンソン・エンド・ジョンソン  医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン(東京)は乳がんと診断に関する情報誌などを配布、 しこりの感触を確かめる人体モデルを展示し、来場者の関心を集めた。 会場では乳房内の病変の一部を取り、病理組織診断を行うマンモトーム生検などを紹介した。 傷跡が小さく、乳房の変形が少なくて済むなどの利点がある。
 来場者の多くは人体モデルに触れ、「ここにしこりがある」などと感触を体験した。 同社ウーマンズヘルスブレストケアグループの沢秀樹さんは「入浴の際、手に石けんを付けて胸に触れ、セルフチェックを」と早期発見の重要性を呼び掛けた。

●〔ライフサポート〕 免疫力高める食事
ライフサポート  食品メーカーのライフサポート(山梨)は野菜のスープドリンクを試飲したり、玄米、良質な大豆タンパクを含むテンペなどを食べやすく調理した弁当250食を用意し、 配布した=写真=。同社は動物性タンパク質や糖分の摂取過剰を改め、内臓の機能を高める「マクロビオティック」という食事法に沿った食材を販売している。
 ライフサポートの篠根肇社長は、「スープドリンクについて現在、富山大学附属病院で免疫力を高めるなどの効果を検証している」と話している。
 県内の医療機関に勤務する20代の女性は「飲みやすい。いろんな調理法に合うのでは」と話した。

●〔ワコール〕 術後の下着など紹介
ワコール  下着メーカーのワコール(京都市)は乳がん専門の事業を展開する「リマンマ」の約20アイテムを展示した。 ブラジャー、水着などはデザイン性に富み、前開きなど機能性を重視した下着などが並んだ。 パットもさまざまな種類があり、リマンマ事業課のチーフアドバイザー西村えり子さんらが新商品を紹介した。
 細かいビーズが胸の切除した部分に合わせて移動し、パットの代わりとなる「アジャストボリュームブラ」などが注目を集めた。 会場では注文受け付けも行われた。富山市の70代の女性は「自分は20年前に手術をしているが、当時に比べて色もデザインも豊富になった」と話した。

制作支援:北國・富山新聞社