富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」
第4回・肝臓がん 実施概要


第4回・肝臓がん
 富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」の第4回(主催:医療と食の充実推進協議会、 小野薬品工業株式会社、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)は平成19年5月6日、 肝臓がんをテーマに富山市大手町の富山国際会議場で開催。約250人の参加者は、 肝臓がんの最新治療や診断、予防に効果的とされる食事のあり方などについて理解を深めた。 第5回の講座は胆道・膵臓(すいぞう)がんをテーマに平成19年9月の開催を予定。



○報 告
■年間死亡数は3万5,000人  富大医学部外科学第2講座助教・森田誠市氏
 日本で2004(平成16)年に肝臓がんで亡くなった人は、男性が約2万5,000人、女性が1万人である。 罹患者数は1975年以降増加してきたが、男性は95年ごろから減少傾向、女性は横ばいの状態が続いている。
 がん発症後の五年生存率で見ると、肝臓がんは肺がんと並び、2割を切ってしまう。このことからも、肝臓がんは治りにくいがんといえる。
 肝細胞がんの85%以上は、C型肝炎、B型肝炎ウイルスを原因として発症している。
C型肝炎を発症している人のうち、酒を多量に飲む人は、飲まない人に比べ、肝臓がんになる確率が高い。  NASH(非アルコール性脂肪肝炎)患者の三分の二に、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の症状があることも注目される。

森田誠市
 もりた・せいいち
 1970(昭和45)年長野県生まれ
 95年富山医薬大(現富大)医学部卒
 同大医学部外科学第2講座医員などを経て今年から同講座助教
 日本外科学会、日本消化器外科学会
 日本消化器内視鏡学会などに所属





■7割切除も3カ月で再生  富大附属病院消化器外科診療教授・山岸文範氏
 切除しても再生する臓器は肝臓以外にない。たとえ、肝臓の7割を切っても、2、3カ月でほぼ元の状態に戻る。 注目すべきは、その過程で、肝細胞、胆管、血管と順序よく機能が再生していくことだ。
 肝臓再生のメカニズムとして、手術で肝臓に流れ込む血液が、肝臓を刺激して再生を促すことなどが考えられている。 肝臓のこの不思議な再生能力は、肝硬変や脂肪肝、黄疸(おうだん)など肝臓に障害があると、うまく働かなくなる。
 手術前に化学療法でがんを小さくしてから部分切除したり、肝臓に障害がある患者には、ラジオ波などでがんを焼いて治療する方法がある。 また、肝臓の代わりをする人工肝臓の研究が進んでおり、近い将来、ブタの肝臓細胞などが一時的にヒトに代用されるようになるだろう。
山岸文範
 やまぎし・ふみのり
 1958(昭和33)年長野県生まれ
 86年富山医薬大(現富大)医学部卒
 2001年厚生連糸魚川総合病院外科部長
 今年から富大消化器総合外科准教授
 同大附属病院消化器外科診療教授
 日本消化器外科学会などに所属




■「酒5合5年」8割に障害  高岡市民病院外科部長・堀川直樹氏
 肝臓は、毒素を分解するなど生命を維持するための代謝の中心である。肝臓の障害を予防するため、食事による栄養の管理は大切になる。
 日本酒5合を毎日飲む生活を5年以上続けると、8割がアルコール性肝障害となり、肝硬変に進むこともある。 また、一般的に鉄分の摂取は良いと思われているが、肝臓に疾患がある人が鉄分を過剰摂取すると肝細胞障害を引き起こし、発がんの促進につながるケースもある。
 肝硬変になり、糖の貯蓄能力が低下すると、空腹時に糖をエネルギーとして放出できない状態などに陥る。 これに対処するため、肝硬変患者が就寝前、200キロカロリー程度の軽食を食べることを勧めている。 肝臓に良い食事はさまざまで、症状に合った適切な食事が求められる。
堀川直樹
 ほりかわ・なおき
 1967(昭和42)年富山市生まれ
 92年富山医薬大(現富大)医学部卒
 同大医学部外科学第2講座助手などを経て
 今年から高岡市民病院外科部長
 日本外科学会、日本消化器外科学会
 日本癌治療学会などに所属




○講 演
■目標は肝機能の維持  国立がんセンター中央病院第2領域外来部長・小菅智男氏
 肝臓がんについては、治療後の患者の利益、不利益のバランスを考慮して治療法を考えることが大切である。 治療を施すことは、患者の肝機能にマイナス作用を及ぼすことを意識し、がん治療を「手段」として、あくまで肝機能の維持を目標にしなければならない。
 肝臓がんは30年前、症状が出にくいこともあり、治療が難しかった。 しかし、最近は超音波による断層画像診断など治療技術が大きく進み、治療の幅も広がっている。
 手術による肝切除は、患者に十分な余力が必要となる。一方、肝臓に針を刺して熱で焼く治療は、 がんのある周辺だけを壊すため、患者の体力的な負担は軽いが、肝切除に比べ、周りの肝臓に及ぼす影響は少なくない。
 肝臓がんの治療はそれぞれに一長一短があり、患者の状態に応じて適切な治療を選択することが求められる。 たとえば、「がんをたたきつぶさずにうまく共存する」という道もある。
小菅智男
 こすげ・ともお
 1955(昭和30)年栃木県生まれ
 79年東大医学部卒
 同大第2外科助手を経て88年国立がんセンター中央病院外科の医師
 91年に医長、99年から同病院第2領域外来部長
 日本消化器外科学会で評議員、日本肝胆膵外科学会などで幹事を務める




■「天寿がん」目指して  金大医学部消化器・乳腺外科教授、太田哲生氏
 がんが発症するまでには、原因となる物質が遺伝子を傷付けて突然変異が起こり、20〜30年かけて大きくなるが、 がんそのものが遺伝することはない。英国の疫学者の調査結果によると、ヒトの発がん因子は35%が食品や栄養、 30%はたばこと生活習慣が占める。食については高カロリー摂取や脂肪過多、塩分、アルコールの過剰摂取ががんの発症を助長すると考えてほしい。
 これまでは早期発見が重視されてきたが、今後は一次予防が重要となる。食事では抗酸化作用を備えたビタミンA、C、Eを含む食品を多く取り、 C型慢性肝炎は鉄分を多く含むレバーやシジミなどは控えた方がよい。地元産の玄米や旬の野菜を日本の伝統的な調味料で調理する「マクロビオティック」の考え方をすすめたい。
 がんの「芽」はだれでも持っており、大きくならないように気を付け、天寿を全うする「天寿がん」を目指してほしい。
太田哲生
 おおた・てつお
 1954(昭和29)年珠洲市生まれ
 79年金大医学部卒
 同大助手、講師、助教授などを経て
 2006年から金大医学部消化器・乳腺外科教授
 日本消化器外科学会、日本肝胆膵外科学会
 日本臨床外科学会などで評議員を務める




■早期治療で転移防ぐ  富大医学部外科学第2講座教授・塚田一博氏
 肝臓がんは、肝臓に最初からできた原発性肝がんと、他の臓器から転移してきた転移性肝がんに分けられる。 原発性肝がんの中で肝細胞がんは、がん発症から1、2年ほどの間に肝内に転移しやすい特徴がある。
 肝細胞がんでは、初期の段階で、いかに肝内への転移を食い止めるかが重要になる。腫瘍(しゅよう)が小さいうちに治療すると、肝内転移の確率は少なくなる。 検診で早めにがんを発見し、早期に治療を施すことが、転移を防ぐことにつながる。
 肝臓には、栄養分が供給される門脈(もんみゃく)などを通り、さまざまな臓器から血液が送られるため、他の臓器からの転移も多い。
 転移性肝がんについては、胆嚢(たんのう)や膵臓など肝臓に近い臓器から転移する確率が高い。一方、大腸から肝臓へのがん転移は、 転移した個所を治療で除去すれば、3割から5割の患者が治るようになった。
塚田一博
 つかだ・かずひろ
 1950(昭和25)年栃木市生まれ
 75年新潟大医学部卒
 同大助手、講師、米・ピッツバーグ大での移植外科研修を経て
 97年に富山医薬大(現富大)医学部外科学第2講座教授
 日本消化器外科学会で理事、評議員、日本外科学会などで評議員を務める




○展 示
富大医師らが CT画像解説
CT画像解説  会場ではコンピューター断層撮影装置(CT)による肝硬変や肝臓がんの疾患部位を示す画像などが展示され、 富大医学部外科学第2講座のスタッフが来場者に正常な肝臓との比較などについて解説した。
 肝臓は肝硬変になると萎縮し、肝臓に回るはずの血液が脾臓(ひぞう)に流れてしまう。 来場者はスタッフの説明で正常、肝硬変、がんの肝臓のCT画像を見比べ、「脾臓に血液が流れることで血小板などが破壊され、 傷口の血が止まりにくくなる」などの症状について説明を受けた。

マクロビオティック弁当300食を配布
マクロビオティック弁当300食を配布  食品メーカーのライフサポート(山梨県)は、新商品の冷凍総菜や食事法の「マクロビオティック」を提唱する久司道夫氏の著書などを展示した。 公開講座終了後には「肝臓に優しい弁当」300食を配布し、疾患予防などに配慮したメニューとレシピを紹介した。
 新商品の冷凍総菜はマクロビオティックの理論に基づいて調理されている。切り干し大根、筑前煮、うの花、きんぴらゴボウと玄米ご飯があり、 自然解凍で食べることができる。活性酸素を抑制する真空調理法により低温で加工され、1年間、できたてのおいしさを味わうことができる。
 「肝臓に優しい弁当」のメニューは玄米おにぎり、漬物、いろいろ蒸し野菜(カボチャの種ドレッシング)、小松菜の白ゴマあえ、テンペの照り焼き、 甘い野菜スープ寒天寄せとなっている。メニューを作成したライフサポートの舘野千端さんは「日常、脂肪の多い食事を取りすぎている人向けのメニュー」としている。


制作支援:北國・富山新聞社