i-shoku.com > 医療を考える:富山県医学市民公開講座 > 「がん治療最前線」 第12回 -がんと漢方-
富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」の「第12回 がんと漢方」(共催:株式会社ツムラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)は平成23年1月9日、富山市大手町の富山国際会議場で開かれた。約430人の参加者は、国際医療福祉大学長で王貞治ソフトバンク球団会長の主治医である北島政樹氏の講演に耳を傾け、漢方薬が術後のケアや抗がん剤の副作用軽減に有効であることを学んだ。
国際医療福祉大学長 北島 政樹 氏
がんの外科治療は、転移の疑いがあるリンパ節などの部分も切除する拡大手術から、体に負担の少ない縮小手術や腹腔鏡(ふくくうきょう)手術などに変わってきている。動作性の高い手術ロボットや、術者の手の感触が伝わる鉗子(かんし)の開発、東京医療センターと慶大医学部を結ぶ世界初の遠隔手術など、「医工連携」で技術開発を進めてきた。
「見張り」の役割を果たすセンチネルリンパ節への転移の有無を確認する方法や、その際に放射性物質を使わず蛍光色素が微小転移を光って知らせる手法も開発した。
一方で、術後の食欲不振や便秘などの症状がなくならないケースは、漢方と外科治療の融合が有効である。例えば、消化管の切除手術を受けた後、漢方薬の大建中湯(だいけんちゅうとう)を服用することで腸の働きが活発になる。開腹手術や腹腔鏡手術を受けた469人について調べたところ、漢方薬を服用した患者は平均で入院日数が3日間、短縮された。
漢方には、抗がん剤や放射線治療による副作用の軽減や、患者のQOL(生活の質)の改善、治療成績の向上などの効果があり、補剤としての役割が期待されている。
富山大学附属病院第2外科診療准教授 長田 拓哉 氏
西洋医学と日本で「漢方医学」といわれる東洋医学はいずれも2千年以上の歴史がある。植物の根、実、花、茎、動物の皮、骨、昆虫からつくる薬を生薬、それを組み合わせたものを漢方薬という。西洋医学では生薬から有効成分のみを抽出し、均一な薬品を大量に精製できるようになった。
西洋薬剤は効果がはっきりしているが、多くの種類を服用しなければならず、副作用もある。一方、漢方薬は多くの成分を含むため、端的な効果は現れにくいものの、現代人が抱える環境の変化やストレスなどを原因とした疾病には、体内の乱れた機能を包括的に改善し、副作用も少ない。
がん治療においても、抗がん剤や放射線治療の副作用軽減、術後の体力回復、合併症を予防したり、がんによる痛みを緩和する効果がある。漢方を西洋薬剤と組み合わせて上手に使っていくことが大切だ。
富山大学附属病院第2外科診療講師 澤田 成朗 氏
胃は食道と十二指腸を結び、すべてを摘出する手術と下半分を切除する場合があり、術後は何らかの障害が現れる。
逆流性食道炎、小胃症状には六君子湯(りっくんしとう)、切除後の貧血は十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、栄養障害、骨代謝障害は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で改善できる。漢方薬は、患者の個人差を尊重する「証(しょう)」に従って処方する。
人参など8種類の生薬から成る六君子湯は嘔吐(おうと)、食欲不振など抗がん剤治療による副作用を軽減する。動物実験でもその効果は証明されており、十全大補湯には転移を抑えたケースもあるが、人間にとって有効かどうかは今後、投与する量も含めて十分な検討が必要である。
外科医だからといって手術に固執してはいけないが、がんの進展や悪化を止める漢方薬は現時点では認められておらず、漢方薬はあくまでも手術、放射線、抗がん剤などを補うものである。
富山大学附属病院第2外科診療講師 吉田 徹 氏
大腸がんでは、がんと転移先のリンパ節を合わせて切り取るため、術後は大腸へのダメージ、神経の連続性が断絶、交感神経の優位な状態が続くなどの原因から一時的に腸の働きが悪くなる腸管麻痺(まひ)が起こる。
これに対し、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術で体の負担を軽くしたり、術後早期からの歩行を促す工夫をしている。薬剤を処方することも多く、その中で人参(にんじん)、山椒(さんしょう)、乾姜(かんきょう)から成る大建中湯(だいけんちゅうとう)を使うことが増えた。大建中湯は腸の冷えからくる痛み、食欲不振などを改善する。腸管血流の増加作用や腸管運動を高める作用が動物実験で証明されている。
大建中湯により腸の内容物が移動する速度が上がるため、大腸がん開腹手術後にガスが排出される日が早まり、入院日数が短縮される。十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)を術前に服用すると、リンパ球の減少による術後の免疫力低下を抑えることができる。
ジョンソン・エンド・ジョンソン 操作しやすい縫合器
ジョンソン・エンド・ジョンソン(東京)は腹腔鏡手術で使う器具や医療品を展示した。
昨年秋に発売された自動縫合器は先端部分が左右それぞれに15度、30度、45度の角度で折れ曲がり、操作しやすい。このほか、術後、腹腔内から体液や血液などを排除するドレーンチューブ、手術用の糸、自動吻合(ふんごう)器などが紹介された。
ビオクラ食養本社 体に優しい弁当配布
ビオクラ食養本社(山梨県)は消化吸収の負担が少ない「からだに優しいお弁当」とそのレシピを配布した。
献立はショウガと油揚げの玄米ご飯、ひえとレンコンのかば焼き風、ゆで野菜&クコの実のごまドレッシング添え、カブと切り昆布のもみ漬け、リンゴでエネルギーは589キロカロリー。
ツムラ 冊子で「証」を解説
ツムラ(東京)は富大医学部和漢診療学の嶋田豊教授による「漢方Q&A」や「高齢者にやさしい漢方治療」などの冊子を会場で配布した。
漢方では患者の個人差「証(しょう)」を重視して治療を行う。冊子には、体力が充実して体の反応が強い「実」と弱い「虚」、熱っぽい「陽」、冷えている「陰」に分け、薬を処方することを、葛根湯などの身近な漢方薬を例に詳述されている。
制作支援:北國・富山新聞社
富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」第12回 -がんと漢方-
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