対談:漢方と最先端医療のこれから
国際医療福祉大学長の北島政樹氏と富大医学部第2外科教授の塚田一博氏が市民公開講座「がんと漢方」の終了後、「漢方と最先端医療のこれから」というテーマで対談した。外科の最新技術を古来からの伝統医学で支える21世紀の医療のあり方について話し合った。
薬効の「科学的根拠」が必要・・・国際的な医学雑誌に発表を
- 塚田氏
- 消化器外科のトップランナーとして世界の最先端を走り続けてきた北島先生がどんなきっかけで漢方と出合ったのか、大変興味がある。
- 北島氏
- ある患者さんの虫垂炎の治療で、大建中湯を処方し、西洋薬剤に比べ、術後の経過が良好だった。自分でも飲んでみたところ、これまで「効く」といわれてきた理由が確認できた。
2001年には慶大医学部にあった漢方を専門とする寄付講座を拡充した。担当する教員には「2年間でエビデンス(科学的根拠)を示せ」とハッパを掛け、遺伝子診断など最先端の手法で薬効を解析する研究を進めてきた。
この結果、慶大にはハーバード大、香港大などから研究者が集い、自国に帰った後も電話回線を使ってカンファレンス(症例検討)を続けるなど、漢方医学を研究する国際的なネットワークが構築できた。
- 塚田氏
- 富大では旧富山医薬大の開学当初から漢方医学の教育がなされており、和漢薬に関する研究も進められてきた。
現在、外科の領域で漢方薬は、がん転移の抑制や、肝臓を切除した後の肝再生、さらに手術後の回復に効果があることが実証されてきている。
- 北島氏
- 漢方薬は生薬の品質が問題となる。その有効性を科学的に証明されたものは、国際的な学会や、医学雑誌などで発表し、認知度を高めつつある。
さらに、課題として挙げたいのは、漢方薬の原材料を中国からの輸入に頼っていてはいけないということである。日本が誇る治療を発展させるためには生薬となる植物を自国で栽培する努力が必要である。
2009年の行政刷新会議で漢方薬を保険適応の対象から外そうとする動きがあった時は「漢方は日本が発信できる薬であり、必要不可欠である」と警鐘を鳴らした。
- 塚田氏
- 放射線治療や化学療法に伴う副作用を軽減するための漢方処方は重要度を増している。ただし、がん治療の場合、西洋薬剤に代わって漢方薬がよいという考え方ではない。西洋薬剤を含めた最先端の治療に漢方を併用することを心掛けるべきではないか。
- 北島氏
- その通りで、最先端の医学とは低侵襲の手術を目指すことであり、われわれは外科治療の補剤として漢方薬の活用法を考えるべきだろう。なぜなら、今日の医療では漢方薬のみでがんが治るという領域にまだ至っていない。
21世紀は発症から治癒までをチームが担い、個々の患者に適した「個の医療」が求められる。本来、中心となるべき医師が、チーム医療を理解していないケースもある。国際医療福祉大ではチーム医療を重点的に教育しており、具体的な症例に対して薬学や看護学の学生が同時に意見を交換する。このような訓練が学生時代から必要である。
- 塚田氏
- 現代の医療が抱える問題を解決するため、最先端医療と漢方医学が21世紀に果たすべき役割とその可能性についてどう考えるか。
- 山口氏
- 外科医療を進化させるには生命科学と温かい心が必要だ。日本では医師免許があれば西洋、東洋両方の薬を処方できる。「個の医療」を実現するために有効な漢方と西洋医学を融合するのに最も適しているのは日本だと信じている。
国際医療福祉大学長 北島 政樹 氏
- きたじま・まさき
- 1941(昭和16)年横浜市生まれ
- 66年慶大医学部卒
- 米マサチューセッツ総合病院外科フェローや杏林大第1外科教授などを経て、
- 91年慶大外科教授。同大病院長、同大医学部長などを歴任し、
- 2009年国際医療福祉大学長。
- 第100回日本外科学会総会で会長を務める。
富大医学部第2外科教授 塚田 一博 氏
- つかだ・かずひろ
- 1950(昭和25)年栃木市生まれ
- 75年新潟大医学部卒
- 同大助手、米・ピッツバーグ大移植外科研修
- 新潟大講師を経て97年富山医薬大(現富大)医学部第2外科教授
- 第67回日本消化器外科学会総会会長、日本外科学会で代議員、日本胆道学会、
- 日本門脈圧亢進症学会で理事を務める