i-shoku.com > 医療を考える:富山県医学市民公開講座 > 「がん治療最前線」 第13回 -胃がん-

富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」

第13回 -胃がん-平成23年9月19日:富山国際会議場


富大医学部第2外科と富山新聞社などで構成する「医療と食の充実推進協議会」の富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」は9月19日、富山市大手町の富山国際会議場で「胃がん」をテーマに第13回の講座が開かれた。約350人の参加者は、京都府立医大消化器外科の大辻英吾教授ら県内外の専門医の講演に耳を傾け、胃がんの現状や腹腔鏡(ふくくうきょう)を使った最新治療の特性などについて理解を深めた。

講演 :野菜、果物、緑茶取ろう

富山大学医学部第2外科診療講師 奥村 知之 氏

  • おくむら・ともゆき
  • 1971(昭和46)年大阪府生まれ
  • 95年新潟大医学部卒
  • 2004年京大大学院医学研究科修了
  • 米・コロンビア大医療センターなどを経て
  • 08年富大第2外科助教
  • 日本外科学会、日本消化器外科学会専門医

胃は食物を粥(かゆ)状にして栄養吸収を助け、ばい菌を塩酸で殺して小腸に流す。胃壁の粘膜細胞の中には塩酸、粘液、酵素などを作る細胞と、細胞自体を作る幹細胞がある。幹細胞の遺伝子異常ががんの発端になる。

遺伝子らせんの中のタンパク質に傷が付いて異常を起こすと、細胞増加に歯止めがかからず、積み重なることでがんにつながる。マウスを使った実験では細胞が増える遺伝子を体内に入れると、腫瘍(しゅよう)ができ、がんになることが証明された。。

危険因子として、たばこや塩分の取りすぎ、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染がある。予防因子には果物や野菜、緑茶の摂取が挙げられる。

人口10万人のうち胃がんにかかる人の割合は、1975年から2005年までの間に緩やかに減ってきている。胃がんで亡くなる人の数は1958年から2009年までの統計で急激に減少しており、早期発見によって治るようになったといえる。

講演:経鼻内視鏡は痛み減少

富大附属病院光学医療診療部准教授 魚谷 英之 氏

  • うおたに・ひでゆき
  • 1962(昭和37)年東京都生まれ
  • 88年富山医薬大(現富大)医学部卒
  • 同大医学部第2外科講師などを経て
  • 2011年同大附属病院光学医療診療部准教授
  • 日本外科学会、日本消化器外科学会指導医

細くて体内に入れやすい経鼻内視鏡が開発され、がん検診が比較的楽になってきた。経鼻内視鏡は直径5ミリで、管が舌の根に触れないため苦しさは少ない一方、照明が1つしかないため撮影画面が暗くなる。口から入れる内視鏡は直径10ミリだが照明が2つ搭載されており、検査時の視界は明るい。また、経鼻内視鏡は鉗子(かんし)が小さく、検査用に採取できる細胞は少ない。のどに疾患があるなどの場合は医師と相談して使ってほしい。

内視鏡は胃と食道のつなぎ目から胃内に入り、胃壁にできものがないかカメラ映像で確かめながら、幽門から十二指腸へ進んでいく。

粘膜筋板より上層の粘膜層にとどまっている早期がんは、内視鏡治療も可能だ。超音波検査で厚みや形を調べ、内視鏡でがんの粘膜を切って全体を剥離した後、再検査で転移がないか確認する。がんの早期発見のため、また克服した後も定期的に検診を受けるべきだ。

講演:韓国や欧米はロボット

富大医学部第2外科診療講師 堀 亮太 氏

  • ほり・りょうた
  • 1973(昭和48)年富山市生まれ
  • 99年富山医薬大(現富大)医学部卒
  • 2008年同大医学部第2外科助教
  • 日本消化器外科学会、日本内視鏡外科学会、
  • 日本腹部救急医学会などに所属

メスで体幹に大きな傷を付ける開腹手術に対し、腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術は小さな傷を負うだけで治療ができる画期的な手術法だ。開腹手術は、痛みが強い、術後の腸の回復が遅い、臓器の癒着が多いなどの短所がある。

腹腔鏡下手術は腹部に開けた10〜15ミリの穴から操作用器具やカメラを入れて行うため、出血が少ない、回復が早い、癒着が少ないなどの長所がある。

しかし、映像画面で臓器を見るため奥行きの感覚をつかむことが難しい。術後5年以降の再発防止に効果があるかはまだ検証中であり、まだ早期がんを中心に行うのが一般的だ。

開腹手術は術野が広く立体視ができる、とっさの対応が可能、これまでのデータの蓄積があるなどの長所から、標準的な治療とされる。

欧米ではロボットアームを駆使した治療も導入されている。将来、技術の進歩で、腹腔鏡下手術がより多くの胃がん治療に使われることを期待したい。

特別講演:「深達度」で手術を選択 転移の危険性 最小限に

京都府立医大消化器外科教授 大辻 英吾 氏

  • おおつじ・えいご
  • 1958(昭和33)年京都市生まれ
  • 84年京都府立医大卒
  • 87年同医学部第2外科助手、91年米・ハーバード大留学、
  • ワシントン大医学部、福祉法人西陣病院などを経て、
  • 2007年京都府立医大大学院医学研究科消化器外科教授
  • 日本外科学会代議員、日本消化器外科学会評議員、日本胃癌学会理事

日本人が患うがんのうち、胃がんは男女ともに高い発症率となっている。年間で男性3万2千人、女性1万7千人が胃がんで亡くなっている。胃壁は、内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿(しょう)膜(まく)下層、漿膜の5層から成り、がんは必ず粘膜から発生する。

がんが粘膜下層より浅いと早期がん、筋層以下に達すると進行がんとなる。塩辛い食品が体内で変化するニトロソアミン、たばこの煙に含まれる有害物質、ヘリコバクター・ピロリ菌などが発症の原因とされる。

深達度、リンパ節転移の程度、他器官への転移の有無から胃がんのステージ(病期)を見極める。

再発には血行性転移、リンパ行性転移、がん細胞が腹腔(ふくくう)内に散る腹膜転移、一度発生した箇所で再発する局所再発がある。局所再発やリンパ行性転移では開腹手術、血行性転移や腹膜転移では抗がん剤による化学療法が効果的である。

胃切除術には幽門側胃切除術、噴門側胃切除術、胃全摘術がある。リンパ節郭清は、胃周囲のリンパ節と脂肪のみを取り除くD1郭清と、胃から少し離れたリンパ節も含めて取るD2郭清がある。進行がんは50%以上の確率で転移しており、転移の有無にかかわらずD2郭清を行う方が術後生存率は上がる。

低侵襲な治療に、胃の内部からがんを切り取る内視鏡摘切除、小さながんや転移の少ない早期がんに行う腹腔鏡下手術がある。大きながんや進行がんについては、開腹手術が一般的だ。

腹腔鏡下手術は痛みが少なく回復も早いが、高度な技術とコストが必要。切開装置や縫合器も発達し、傷や出血の少ない手術は可能だが、がん克服には何より早期発見が大切だ。

パネル討論:負担少ない腹腔鏡

富山県医学市民公開講座では講師陣がパネル討論した。富大医学部第2外科の塚田一博教授が進行役を務め、京都府立医大消化器外科の大辻英吾教授、富大附属病院光学医療診療部の魚谷英之准教授、同大医学部第2外科の奧村知之診療講師、堀亮太診療講師は腹腔鏡(ふくくうきょう)を使った最新治療と開腹手術の特性などについて意見交換した。

症例積み上げ新治療充実を 名医の技を映像で残し学ぶ
  • 塚田氏
  • 腹腔鏡下手術は、がんが粘膜内にとどまっていて、リンパ節転移の可能性が少ない早期の症例に限って始められた。患者さんの立場に立てば当然、手術の傷が小さい腹腔鏡下手術を希望する声は多いだろう。現時点でどの手術を選択すべきか。
  • 大辻氏
  • 一番の決め手はがんの「深達度」である。転移がないと思われるものは内視鏡で取ってしまえる。しかし、進行がんであればほぼ50%は転移の可能性があるので開腹し、リンパ節も除いている。
    患者さんの命がかかっている以上、より再発の危険性が少ない方法を選ぶべきだ。一方、個人的には全国で早期がんの症例を積み上げることで、「腹腔鏡手術でも治る証拠」となり、将来的には進行がんでも腹腔鏡で対応できる可能性が広がると思っている。
  • 堀氏
  • 日本の胃がん治療はこれまで長い間、たくさんの先生方が積み上げたものがあり、その上で新しい治療に挑戦している。過去の実績に負けない確証があってこそ、患者さんに腹腔鏡手術を勧められると考えている。
  • 塚田氏
  • 富大附属病院でも内科、外科の医師が合同で検討会を開き、手術方法を選択している。その場合に基準となるがんの深達度は手術前でどのくらい確かなものか。
  • 大辻氏
  • 私たちが医師になったころは「レントゲンや胃カメラの画像で深達度を読め」と言われたが、最近は超音波内視鏡があるので診断はかなり正確になってきた。しかし、完璧ではないので、安全域を意識しながら治療を進めている。
  • 魚谷氏
  • 超音波内視鏡の検査結果は約90%当たっているが、残りの10%は早期と診断したがんが粘膜下層まで進んでいたケースもある。したがって、まず組織を採取して診断を下すことが多くなっている。
  • 大辻氏
  • 「万が一」ということがないよう心掛けている一方、患者さんが強く内視鏡治療を希望した場合、切除した組織を顕微鏡で見て取り残しがあればあらためて開腹手術をしてもいいのではないかと考えている。
  • 塚田氏
  • 腹腔鏡下手術を受けた患者さんの5年、10年生存率を検証することが重要である。また、技術的向上も必要だろう。
  • 大辻氏
  • 腹腔鏡下手術は外科医の技量の差が出る。個々の医師がこの差を縮め、モニター画像、レンズなどの医療機器が進歩し、だれがやっても一定のレベルを保てるよう質を高める必要がある。
  • 塚田氏
  • 自動縫合器、自動吻合(ふんごう)器などは日々改良され、超音波凝固切開装置のおかげでかなり太い血管でも機械的に切って端を縫い合わせることができる。最近の医療現場で進歩を実感した例は。
  • 奧村氏
  • 以前は「技を見て盗め」と言われた。しかし、今は手術室にカメラが入り、先輩の手術の映像が自動的に記録され、見ることができる。国内、海外の名医といわれる人の手術を見ることは勉強する側にとってはいい。

富山大学附属病院 第二外科 診療部門長 塚田 一博 氏

  • つかだ・かずひろ
  • 1950(昭和25)年栃木市生まれ
  • 75年新潟大医学部卒
  • 同大助手、米・ピッツバーグ大移植外科研修、新潟大講師を経て
  • 97年富山医薬大(現富大)医学部第2外科教授
  • 第67回日本消化器外科学会総会会長、日本外科学会で代議員、
  • 日本胆道学会、日本門脈圧亢進症学会で理事を務める

特設ブース・展示

ビオクラ食養本社(山梨県) 体に優しい弁当配布

ビオクラ食養本社(山梨県)は消化吸収の負担が少ない「からだに優しいお弁当」とそのレシピを配布した。献立は雑穀入り玄米ご飯、ショウガの梅酢漬け、テンペのショウガ焼き、ナスみそシソ風味、ブロッコリーのクルミあえ、リンゴの蒸し煮でエネルギーは593キロカロリー。

ジョンソン・エンド・ジョンソン(東京) 最新の医療機具を展示

ジョンソン・エンド・ジョンソン(東京)は腹腔鏡下手術で使う器具や医療品を展示した。

止血専用の電気メスの一種は、胃や大腸手術の前処理として臓器の周辺の血管などを切除する。センサーが血流に反応し、凝固しているかを確認する機能を備えており、直径7ミリの血管まで対応できる。

このほか、術後、腹腔内から体液や血液などを排除するドレーンチューブ、自動吻合(ふんごう)器などが紹介された。

中外製薬(東京) 検診、治療手引きを配布

中外製薬(東京)は検診や治療の手引きを配布し、来場者に早期発見の大切さを呼び掛けた。

んの薬物療法を受ける患者に脱毛や嘔吐(おうと)、出血などの副作用について解説、「最良の医療を受けるためのコミュニケーション法」という冊子も配った。

制作支援:北國・富山新聞社

pdfダウンロード

富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」第13回 -胃がん-
左のサムネールからpdfファイル(620KB)をダウンロードしてください。