i-shoku.com > 医療を考える:富山県医学市民公開講座 > 「がん治療最前線」 第14回 -乳がん-

富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」

第14回 -乳がん-平成23年10月8日:富山国際会議場


富大医学部第2外科と富山新聞社などで構成する「医療と食の充実推進協議会」の富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」は10月8日、富山市大手町の富山国際会議場で「乳がん」をテーマに第14回の講座が開かれた。約300人の受講者は、仕事、家事、育児などで忙しい年代の女性に多い乳がんについて早期発見の重要性と最新治療に理解を深めた。

講演 :薬物の併用療法進む

東京慈恵会医大外科講師 野木 裕子 氏

  • のぎ・ひろこ
  • 1965(昭和40)年東京都生まれ
  • 91年新潟大医学部卒
  • 新潟大医学部附属病院、東京慈恵会医大附属病院、
    ハーバード医大などを経て
  • 2005年に東京慈恵会医大外科乳腺内分泌外科分野助教、11年から講師
  • 日本乳癌学会専門医

乳がん治療には手術、薬物、放射線治療がある。薬物治療は、乳管を破って増殖し、血管やリンパ管に入って全身に散った転移の元になる微少ながん細胞をなくす効果がある。

薬物治療は、化学療法、ホルモン療法、分子標的療法の3つに分かれる。化学療法は、アントラサイクリン系やプラチナ系、代謝拮抗剤系の薬を使って細胞内でDNAが複製されるのを防ぎ、がん細胞を殺す。紡錘糸の形成を阻害するタキサン系の薬、ビノレルビンなどもある。

ホルモン療法は、抗エストロゲン剤やアロマターゼ阻害剤などを使って細胞内のホルモン受容体に女性ホルモンのエストロゲンが結びつくのを邪魔し、細胞分裂を阻止する。分子標的療法は、乳がんの増殖に関わるタンパク質から信号が送られるのを邪魔する働きがあり、ほかの抗がん剤と合わせて使用できる。

講演:乳房温存の傾向強く

東京医大病院乳腺科助教 海瀬 博史 氏

  • かいせ・ひろし
  • 1961(昭和36)年静岡県生まれ。
  • 87年東京医大医学部卒。
  • 愛知県がんセンター、癌研究会研究所などを経て
  • 2005年東京医大病院乳腺科助手、07年から助教。
  • 日本臨床腫瘍学会暫定指導医。日本乳癌学会、日本外科学会専門医。

技術の進歩により、手術を受ける患者の負担は少なくなっている。1980年代は、大胸筋を切除する胸筋合併乳房切除が主流だったが、同年代後半からは、筋肉を残して乳房のみを取り去る胸筋温存乳房切除が可能になった。2003年以降は乳房温存が増え、現在は約60%が温存療法を受ける。手術跡が縮小したことで、美容面の悩みや術後に腕が上がらないなどの症状が軽減された。

患者は病状に合わせて、乳房とリンパ節をどの程度切除するか組み合わせて選択できる。乳房は、全摘出の場合、自分の体の組織や人工物を使って乳房を再建または左右の釣り合いが取れるように健康な乳房を縮小する手術を受けることができる。温存療法の場合は、抗がん剤や放射線治療を併用することがある。特定のリンパ節を調べて転移の有無を判断できるセンチネルリンパ節生検で、リンパ節の部分切除もできる。

講演:気軽に相談どうぞ

富大附属病院乳がん看護認定看護師 倉田 典子 氏

  • くらた・のりこ
  • 1977(昭52)年射水市生まれ。
  • 99年富山医薬大(現富大)医学部看護学科卒。
  • 富大附属病院に勤務し、2010年に乳がん看護認定看護師の資格取得。
  • 日本乳癌学会、日本乳がん看護研究会に所属。

乳がん看護認定看護師とは日本看護協会認定の資格で、7月現在、全国では163人、県内では5人が活躍している。乳がんの発症が結婚、出産、育児、仕事など生活に与える影響や、複雑化する治療法の選択に悩む患者に精神的なサポートや助言を行う。

相談内容は、病状に応じた乳がんの知識や自宅で過ごす患者の自己管理方法、手術前後の精神的ケアや乳房の補正、再発に対する不安など多岐に及び、患者家族の悩みにも応じる

乳房を温存するとがんが残るのではと心配する患者には、切除した場合と比較した術後経過を解説。脱毛を心配する患者には術前にかつらの装着を勧めるなど、男性医師に聞きにくいことでも気軽に相談してほしい。

講演:閉経後は肥満予防

富大医学部第2外科助教 松井 恒志 氏

  • まつい・こうし
  • 1974(昭和49)年南砺市生まれ
  • 99年富山医薬大医学部卒
  • 同大大学院医学研究科を修了し、08年富大医学部第2外科助教
  • 日本乳癌学会、日本外科学会、日本消化器外科学会、
  • 日本消化器内視鏡学会のいずれも専門医

国内では、年間約5万人が乳がんを発症、約1万人が亡くなっている。発症年齢は、40〜50代がピークであり、年々ピークの年代は、上がってきている。発症率、死亡率はともに増加傾向にある。

乳がんの5〜10%は遺伝性で、家族に発症者がいるとリスクは高い。女性ホルモンや成長ホルモンの影響で、身長が高いと発症しやすい。

また女性では、月経期間中、乳がんの増殖を促す女性ホルモンのエストロゲンに乳腺(せん)がさらされるため、初経年齢が早く、閉経が遅いと乳がんにかかりやすいとされる。閉経後には、脂肪組織でエストロゲンが作られるため肥満の人がなりやすい。アルコール、たばこを控え、閉経後、肥満を防ぐことが予防につながる。

講演:異常あれば即受診

富大医学部第2外科助教 長田 拓哉 氏

  • ながた・たくや
  • 1964(昭和39)年金沢市生まれ
  • 91年富山医薬大医学部卒
  • 同大大学院医学研究科修了後、同大第2外科助手などを経て
  • 07年富大附属病院第2外科講師
  • 日本乳癌学会認定医。日本外科学会専門医

富大で乳がんの手術を受けた患者300人のうち、検診で異常が見つかった3分の1は、1力月以内に医療機関を受診、自分でしこりなどを自覚した約3分の2は、1力月以上経過してから受診している。検診で早期に乳がんが見つかった患者は、腫瘍(しゅよう)が小さく、リンパ節転移も少ない。一刻も早い受診が、長生きにつながる。

県内では、40〜60歳の女性は2年に1回、乳房をX線で撮影するマンモグラフィーなどの乳がん検診を受ける必要があるが、受診率は3分の1にとどまっている。マンモグラフィーや乳房超音波検査では、触診では分からない小さながんを早期に発見できる。異常があれば早めに病院に足を運んで検査を受けてもらいたい。

パネル討論:進む治療の個別化・早期発見に努めて

富山県医学市民公開講座では講師らが受講者からの質問を基にパネル討論した。富大医学部第2外科の塚田一博教授が進行役を務め、東京慈恵会医大外科乳腺内分泌外科分野の野木裕子講師、東京医大病院乳腺科の海瀬博史助教、富大医学部第2外科の長田拓哉講師と松井恒志助教、同大附属病院乳がん看護認定看護師の倉田典子氏が意見交換した。

手術前の化学療法は有効 少ない切除で浮腫も軽減
  • 塚田氏
  • どんな人ががんになりやすいのだろうか。最近、遺伝子診断なども話題となっている。患者さんからどんな相談を受けるか。
  • 海瀬氏
  • 母、娘が乳がんを発症するケースは確かにある。遺伝性の乳がんについて関係があるとされる遺伝子は2種類が特定されている。2世代ほど先の時代になればもっと多くのことが分かり、予防、診断に生かされるかもしれない。現段階では早期発見に努めることが最も大切である。
  • 野木氏
  • 遺伝子診断に興味を持っている方でも、「(費用が)40〜50万円かかります」というと「じゃあ、いいです」と言われる。また、検査して「乳がんにかかりやすい遺伝子を持っている」と診断された場合、予防措置として乳房を切除したいとは思わないだろう。だったら、「皆さん、毎年検診を受けましょう」ということになる。
  • 塚田氏
  • 治療の進歩という点では乳がんに限らず、切除する範囲が小さくなってきている。近年の傾向についてはどうか。
  • 海瀬氏
  • 切除する範囲は直径1センチのがんなら3〜4センチで済む。しかし、4センチなら8セ ンチも取らなければいけない。したがって、何より大切なのは早期発見である。
  • 塚田氏
  • 化学療法と手術の併用ではどんな課題があるか。
  • 野木氏
  • 議論の大きいところである。例えば、直径4センチの腫瘤(しゅりゅう)が化学療法により見えなくなった場合、変化によって次の治療を選択する。中心に向かって小さくなっていったのなら、中心だけ取るという方法を選ぶ医師もいる。
    私たちは、もともと腫瘤があった4センチを切除している。術前に治療しなければ6センチ以上切除していたはずだから、化学療法により温存できる範囲は大きくなる。将来、画像診断が進歩して、がんが消えたと確定できる時代が来れば、手術をしなくて済むかもしれない。
  • 長田氏
  • 早期に発見できた場合、小さな傷が付くだけで、脇からロボットハンドを入れて鏡視下手術で切除し、乳房の形を残すことも可能になった。
  • 塚田氏
  • 乳がんの場合、見張りリンパ節(センチネルリンパ節)で転移の有無を確認できる。危険性があると判断し、リンパ節を切除した場合、浮腫(ふしゅ)などの後遺症もある。
  • 海瀬氏
  • リンパ浮腫が起こる理由は手術の手技にもよる。現在は脂肪や筋肉を残して切除するので、以前よりむくみはかなり少なくなったはずだ。
  • 倉田氏
  • 術後の相談で最も多いのはむくみ。乳房を温存してもむくみが出る人がいる。浮腫になってしまってから治すのは大変なので、日常生活の見直しが大切だなどと助言している。
  • 塚田氏
  • 治療選択についてもう少し詳しく紹介してほしい。
  • 海瀬氏
  • 乳がんは治療の個別化が一番進んでいる分野だ。ホルモンの感受性とHR2レセプターにより、四つの組み合わせが考えられる。このほか、オンコタイプDX、マンマプリントなど、がんそのものの遺伝子を検査することで化学療法を受けるべきかなどを判定する方法もある。

新薬の情報を共有し選択 食事や運動でリスク軽く
  • 野木氏
  • 顕微鏡で核の形を見る方法もある。腫瘍が大きくてもホルモン療法の感受性が大きければ抗がん剤をやらない。逆にホルモン療法が効かない場合、1センチのがんで抗がん剤を使うケースもある。抗がん剤も種類、回数を柔軟に変更でき、治療の選択肢は増え、難しくなった。
  • 松井氏
  • 選択肢は本当に人それぞれ。新しい薬が次々と開発され、どのタイミングで使うかは悩む。予想に反して効いたり、効かなかったりするし、さじ加減、使い慣れもある。新薬に期待する気持ちは医師、患者ともにあるが、うまく使いたい。
  • 長田氏
  • 今、患者さんは治療についての情報を自分で簡単に調べることができるため、「ハラベンを使ってほしい」など、患者さんから新薬の使用を提案されることもある。
    これまで使ったことがない抗がん剤を試す場合、学会、研究会で効果や副作用などの情報提供を求め、ガイドライン、患者さんの希望と照らし合わせながら話し合って治療に当たる。また、新薬に関する情報を学会などで発信、共有していくことも大切な役割である。
  • 塚田氏
  • 女性の患者さんに接する上での気遣い、女性ならではの気配りなどはどうか。
  • 倉田氏
  • 富大附属病院では乳がんの専門医は男性なので、先生方に聞きにくいこと、例えば「下着はどのようなものを着けたらいいか」などと尋ねられることもある。女性の強みを生かして相談に応じている。
  • 野木氏
  • 一般女性の話を聞きながら、性生活などを含めてなかなか立ち入りにくい話題にも触れ、「お節介おばちゃん」のようなノリで患者さんに接している。
  • 塚田氏
  • 最後に予防、早期発見に努める上で生活習慣におけるリスクファクターも含めてお伝えすべきことは。
  • 海瀬氏
  • このような公開講座などの機会を通じて、正しい知識を正しく知ることが大切だ。
  • 野木氏
  • がんについて知ることは、「がん=死に至る病」という恐怖を打ち消すことになるはずである。
  • 倉田氏
  • いろんなことを一人で悩まず、何でも相談してほしい。
  • 長田氏
  • 近年、食事への意識は高まっている。あとは運動だ。体を動かすのが苦手な人は、ラジオ体操でもいいから続けてほしい。
  • 松井氏
  • 食生活は野菜、豆類を中心に。閉経後に肥満傾向の方は体重を減らすことを心掛けて。ただし、やせたからといってがんにならない保証はないので検診を忘れずに。
  • 塚田氏
  • 12月18日にはこの会場で大腸がんをテーマに公開講座を開催するので、ぜひ足を運んでいただきたい。

富大医学部第2外科教授 塚田 一博 氏

  • つかだ・かずひろ
  • 1950(昭和25)年栃木市生まれ
  • 75年新潟大医学部卒
  • 同大助手、米・ピッツバーグ大移植外科研修、新潟大講師を経て
  • 97年富山医薬大(現富大)医学部第2外科教授
  • 第67回日本消化器外科学会総会会長、日本外科学会で代議員、
  • 日本胆道学会、日本門脈圧亢進症学会で理事を務める

特設ブース・展示

アデランス 抗菌性高いかつら展示

アデランス(東京)は抗がん剤治療で脱毛した場合のウィッグ(かつら)を紹介、通気性に優れ、抗菌性が高いことなどをアピールした。

オーダーメード品は28万円からで注文後、約1カ月で手渡しとなる。既製品は10〜17万円で色、スタイルは豊富。頭皮がかぶれないよう素材を工夫してあり、アジャスターで簡単にボリュームの変化にも対応できる。

越屋メディカルケア パットや下着入浴着を紹介

医療、介護用品の越屋メディカルケア(金沢市)は下着や人工乳房(パット)、入浴着、キャップなど手術、化学療法後のさまざまな状況に対応する衣料品を展示した。

入浴着はがん患者のアイデアを生かして開発した。乳房を切除した傷跡を子どもに見せたくない、湯船にタオルを浸すことを禁じる公衆浴場で注意を受けた、などの声を聞き、商品開発につなげた。

リンパ節を切除後、リンパ浮腫(ふしゅ)の症状を改善するためのミトンやスリーブ、ストッキングも並んだ。

ビオクラ食養本社 自然の味わいクッキー配る

ビオクラ食養本社(山梨)は「野菜のマクロビオティッククッキー(アソートタイプ)」を配布した。

国産小麦を使い、牛乳、卵は使っていない。カボチャ、紫イモ、ヨモギ、トウモロコシなどさまざまな自然の風味を生かし、さっくりと焼き上げた。

 あけぼの会が23日セミナー

乳がん経験者による「あけぼの会」富山支部の西田恵子支部長と谷井笑子さんらは11月23日に富山市の県総合福祉会館で開催する「乳がんサポートセミナー」のチラシを配布、来場を呼び掛けた。

セミナーは午後1時半から開かれ、富大医学部第2外科の長田拓哉講師と倉田典子看護師が講演する。

西田さんらは会の案内なども合わせて配布した。あけぼの会は毎月第3日曜日午後1時半から、県民共生センターに希望者が集まり、情報交換をするなどの活動を行っている。

制作支援:北國・富山新聞社

pdfダウンロード

富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」第14回 -乳がん-
左のサムネールからpdfファイル(620KB)をダウンロードしてください。