i-shoku.com > 医療を考える:富山県医学市民公開講座 > 「がん治療最前線」 第15回 -大腸がん-

富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」

第15回 -大腸がん-平成23年12月18日:富山国際会議場


富大医学部第2外科と富山新聞社などで構成する「医療と食の充実推進協議会」の富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」は12月18日、富山市大手町の富山国際会議場で、「大腸がん」をテーマに第15回の講座が開かれた。受講者約420人は、大腸がんの最新治療や早期発見につながる検査、バランスのよい食事や生活習慣の改善に理解を深めた。

講演 :検診で死亡率減少

熊本大医学部消化器外科教授 馬場 秀夫 氏

  • ばば・ひでお
  • 1958(昭和33)年、佐賀県生まれ
  • 84年熊本大医学部卒
  • 米・テキサス大医学部留学、国立病院九州がんセンター消化器外科医長、九州大消化器・総合外科助教授などを経て、2005年熊本大消化器外科教授
  • 日本外科学会代議員、日本消化器外科学会、日本消化器病学会のいずれも評議員、日本癌治療学会理事

腹腔鏡手術は患者の負担軽減

大腸は結腸と直腸を合わせた総称で、がんは結腸に58%、直腸は42%の割合で発症している。全国では2009年の死亡者数は男性が約2万3千人、女性が約2万人で、患者数は1975年から30年間で男性が約6・4倍、女性は約5・1倍になった。

便潜血検査で7割が早期発見でき、死亡率が約6割減少する。受診率は年々上がり、2007年は男性25・7%、女性は22・7%が受けた。下痢や便秘を繰り返す、便に血が混じる、便が残りすっきりしないなどの症状があれば注意してほしい。

内視鏡検査は、粘膜の表面を直接観察してがんを発見する。CT(コンピューター断層撮影)検査は、断面図からリンパ節や臓器への転移を確認する。PET(陽電子放射断層撮影)?CTは、がん細胞が通常の細胞よりブドウ糖を3〜8倍多く吸収する特性を利用し、位置を特定する。MRI(磁気共鳴画像装置)は骨盤内や直腸領域の診断に優れており、臓器やリンパ節転移の有無が分かる。

結腸がんの手術では、がんの周辺10センチほどを切除して腸を縫い合わせる。直腸がん手術では人工肛門(こうもん)が必要になる場合もあるが、技術的な進歩によりかなり肛門に近い場合でも腸をつなぐことが可能になった。術前に放射線や抗がん剤を使用することで切除範囲を減らす工夫もされている。

腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術など患者さんの負担が少ない治療法が開発され、抗がん剤や分子標的薬の進歩で延命できるようになった。技術の進歩はめざましいが、早期発見に勝るものはない。

講演:人工肛門でも大丈夫

富大附属病院診療講師 吉田 徹 氏

  • よしだ・とおる
  • 1970(昭和45)年高岡市生まれ
  • 94年富山医薬大(現富大)医学部卒
  • 2007年富大大学院医学研究科を修了し、同大医学部第2外科助教
  • 日本外科学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会のいずれも専門医

大腸がんは進行度(ステージ)に応じて治療を進める。がんは必ず腸表面の粘膜から始まり、ステージは、粘膜内にとどまる「0」、第2〜3層に進む「Ⅰ」、さらに下層へ進行する「Ⅱ」、リンパ節へ転移する「Ⅲ」、肺や肝臓まで転移する「Ⅳ」に分類される。0やⅠの初期段階は内視鏡による切除、Ⅰ〜Ⅲは手術、Ⅳは手術と抗がん剤治療を組み合わせて行う。

直腸の肛門(こうもん)付近にがんが発生すると、肛門を周囲の皮膚も含めて切除する必要があり、腸の端を腹部の皮膚上に出して人工肛門(ストーマ)を作る。ストーマには単(たん)孔(こう)式と双孔(そうこう)式があり、病状に応じて選択される。ストーマでも快適に過ごせるよう、強力な消臭剤、水泳や入浴時のカバーなどの商品も出ており、患者さんが日常生活を支障なく送る環境づくりが進んでいる。

講演:陽性なら精密検査を

富大附属病院診療助手 北條 荘三 氏

  • ほうじょう・しょうぞう
  • 1974(昭和49)年、長野県生まれ
  • 2000年富山医薬大(現富大)医学部卒
  • 07年富大大学院医学研究科を修了し、09年同大附属病院診療助手
  • 日本外科学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会のいずれも専門医

大腸がんは、早期発見と適切な治療で9割以上が治る。便の溶血、腹痛、吐き気などの症状が現れる前に見つけてほしい。1次検診に便潜血反応検査、2次検診に精密検査がある。便潜血検査は、毎年受けることでがん死亡の危険性を減らすことができる。一方、ごく早期だと陽性反応が出ず、がんを見逃す可能性もある。

仮に100人に陽性反応が出ても、精密検査を受けるのは6割ほどで、15人がポリープ、2、3人ががんを発見する。便潜血があってもがんとは限らないが、内視鏡の挿入に抵抗を感じて受診しない人が約4割おり、受診者に比べて死亡率が5倍に上がる。大腸CT(コンピューター断層撮影)もあるが、小さな病気を見逃しやすい。便潜血検査が陽性なら必ず、内視鏡検査を受けてほしい。

講演:目指そう「大腸美人」

富大附属病院診療助手 橋本 伊佐也 氏

  • はしもと・いさや
  • 1975(昭和50)年群馬県生まれ
  • 2001年富山医薬大(現富大)医学部卒
  • 富大大学院医学研究科を修了し、11年富大附属病院診療助手
  • 日本外科学会専門医
  • 日本消化器外科学会、日本癌治療学会などに所属

きれいで健康的な大腸を持つ「大腸美人」になる上で、生活習慣と食事のバランス改善が大腸がんの予防と発症のリスク低下につながる。大腸がんにおいて飲酒は大、肥満と運動不足は中の関連因子であり、喫煙も関連因子の可能性がある。

欧米の研究結果では、肉や魚、塩辛いもの、乳製品の過剰な摂取と、ビタミン類やカロテノイド、緑茶、コーヒーの摂取不足で発症リスクが上がるとされる。しかし、日本人に当てはまる十分な結果はまだ出ていない。

注意点では、肥満の人がダイエットで体のバランスを崩し、他人に効果的な方法が自分に当てはまらないこともある。国立がん研究センターのホームページにある「がんリスクチェック」を一度試してみるなど、がん発症のリスク軽減について学んでほしい。

パネル討論:見逃すな便の異常・早期なら完治可能

富山県医学市民公開講座では、講師が受講者からの質問を基に意見交換した。富大医学部第2外科の塚田一博教授が進行役を務め、熊本大大学院生命科学研究部(医学部)消化器外科の馬場秀夫教授、富大附属病院の吉田徹診療講師、北條荘三診療助手、橋本伊佐也診療助手が意見交換した。

病巣縮小した後、切除可能に・生活の質向上の願いに応え
  • 塚田氏
  • 大腸がんは、切除できるケースしか治療効果は期待できないと思われていた部分がある。近年の「がん治療最前線」はどうか。
  • 馬場氏
  • 例えば肝臓などに転移があってすぐに手術できない場合、抗がん剤を使うことで5割はがんが縮小し、うち3、4割は切除できるようになる。最初から手術できたケースと同じくらい5年生存率は高くなってきている。
  • 北條氏
  • 抗がん剤の選択肢は増え、種類を変えて効果を比較できるようにもなった。
  • 塚田氏
  • 直腸がんの治療では人工肛門(ストーマ)には抵抗があるのか、手術を敬遠する患者さんが多い。欧米では放射線、化学療法で効果を上げているが。
  • 馬場氏
  • 日本はリンパ節を切除することで再発を防ぐ「側方郭清」が普及し、手術成績は世界一である。一方、欧米はリンパ節を残し、人工肛門も敬遠される傾向が強いため、放射線で病巣を小さくしてから手術する治療が主流である。考え方の違いや成績から、国内で大腸の治療に放射線を使う施設は一部にとどまっているのが現状である。
  • 塚田氏
  • 生存を優先しながらも、患者さんには生活の質(QOL)を向上させたいという思いが強くなってきた。医療もそれに応えていこうとしている。直腸がんでは肛門括約筋を一部でも残すなど、手術をするにしても機能の維持に努めている。
  • 馬場氏
  • 腫瘍(しゅよう)の大きさなどに配慮しながら、側方郭清による神経系へのダメージをできるだけ避け、生殖、排尿などの機能が落ちないように治療を選択している。10年、20年前に比べて、人工肛門を付けなければいけない手術は明らかに減った。一方で、人工肛門をつくらずに肛門近くでつなぐと合併症の可能性は高まることもある。
  • 橋本氏
  • 人工肛門というだけで拒絶反応を示す方がいる。その場合、家族と一緒にビデオを見て理解してもらっている。
  • 吉田氏
  • 加齢による経過の差も考えてほしい。高齢者では術後、便意を催してもトイレまで間に合わなかったり、パットを着ける必要が生じる場合もある。人工肛門の方がQOLが上がることもあると理解していただきたい。
  • 塚田氏
  • 新しい選択としての腹腔(ふくくう)鏡手術はどうか。
  • 馬場氏
  • 開腹と腹腔鏡手術のどちらがいいかについては臨床試験で経過を追跡中であるが、がんの根治性に関しては差がないという結果が出そうだ。ただし、ほかの臓器にくっついている場合など腹腔鏡手術にも限界がある。

深酒や連日の飲酒控えよう・バランス良い食事と運動を
  • 北條氏
  • 実感として、腹腔鏡は患部がよく見えるようになるなど進歩した。医師も両方の利点を理解しながら経験を積む必要がある。
  • 塚田氏
  • 大腸がんの早期発見は便潜血反応検査が最も有効なのだろうか。
  • 北條氏
  • 全員を対象に「ふるい分け」する検診としてはベストだ。すべての人に内視鏡検査を行うことは経済的に難しく、患者さんの肉体的負担も大きい。1000人が便潜血検査を受けた場合、約100人が「陽性」といわれる。その中で精密検査を受けるのは6割程度しかいないのが現状である。1000人のうち、2、3人から大腸がんが見つかる。ただし、「陰性」でもがんの可能性はある。陰性と言われても毎年、しかも2日分の便を採取する便潜血検査を受けてほしい。
  • 塚田氏
  • 便潜血検査による見逃しの危険性をゼロにはできないが、毎年受ければ早い段階で発見できる。もちろん、がんにならないに越したことはないわけで、予防の観点から、生活習慣で心掛けることは何か。飲酒の影響などはどうか。
  • 橋本氏
  • 1日の摂取量は日本酒なら1合、ビールは大瓶1本、焼酎(しょうちゅう)は120ミリリットル、ウイスキーはダブル1杯、ワインなら200ミリリットルを目安に。いずれもアルコール換算で23グラムとなる。15グラム上乗せで大腸がんのリスクは10%高くなる。アルコールの代謝酵素を持っている人が日本人は欧米人より少ないため、日本人の方がリスクは高い。
  • 馬場氏
  • 食道がんはたばことアルコールの摂取で危険度が増す。酒を飲んで顔が赤くなる人が継続的に飲むとリスクは高まる。どのがんを予防するという観点からでもいえるのは、深酒や連日飲むことを控えるべきである。
  • 塚田氏
  • (酒に)弱い人が無理して飲むことはよくない。運動の効果はどうか。
  • 橋本氏
  • 朝起きて車に乗り、近い駐車場に止めて、エレベーターに乗り、歩く時間は短い。そんな生活は改めなくてはいけない。
  • 塚田氏
  • 食生活でも食物繊維を摂取し、よく噛(か)むなど、咀嚼(そしゃく)、消化、吸収の能力を使って腸に一定の負荷をかける必要があるのでは。
  • 馬場氏
  • 肉ばかりなど、特定の食材に偏らず、バランスのよい食事をすることも大切である。
  • 塚田氏
  • 最後に強調しておきたいことを述べてほしい。
  • 橋本氏
  • 運動不足にならないように。気をつけるのは難しいが、自分も少しずつ気をつけて頑張っていきたい。
  • 北條氏
  • 便潜血検査を毎年受け、陽性なら精密検査の大腸カメラを必ず受けてほしい。
  • 吉田氏
  • 人工肛門をストレスに感じるかもしれないが、前向きにつきあっていってほしい。サポート体制はまだ不十分なところもあり、充実させていきたい。
  • 馬場氏
  • 早期発見できれば肛門から内視鏡を入れて局所を切除するだけで済む。もう少し先、局所のリンパ節転移程度で済めば開腹または腹腔鏡手術をする。さらに多臓器に転移していれば可能ならすぐ手術、無理なら抗がん剤や分子標的療法を試み、病巣が小さくなれば手術もできる。

第16回講座は7月21日開催
  • 塚田氏
  • 第16回の市民公開講座は7月21日、「善(よ)い外科医と良い外科治療」をテーマに、富山市で開催される第67回日本消化器外科学会総会に併せて富山国際会議場で開かれる。

富大医学部第2外科教授 塚田 一博 氏

  • つかだ・かずひろ
  • 1950(昭和25)年栃木市生まれ
  • 75年新潟大医学部卒
  • 同大助手、米・ピッツバーグ大移植外科研修、新潟大講師を経て
    97年富山医薬大(現富大)医学部第2外科教授
  • 第67回日本消化器外科学会総会会長、日本外科学会で代議員、
    日本胆道学会、日本門脈圧亢進症学会で理事を務める

特設ブース・展示

ヤクルト ヤクルト400配布

ヤクルト(東京)は保健機能食品「ヤクルト400」と大腸がんの治療などについてまとめた冊子を配布した。

ヤクルト400は、生きて腸まで届き、腸内環境を改善する乳酸菌シロタ株を1本あたり、400億個含んだ乳製品乳酸菌飲料である。

ジョンソン・エンド・ジョンソン 最新の医療機具を展示

ジョンソン・エンド・ジョンソン(東京)は腹腔(ふくくう)鏡手術で使う器具や医療品を展示した。

自動吻合(ふんごう)器や超音波メス、腹壁を通して腹腔内に手術器具を挿入するトロッカー、手術用の糸などが紹介され、来場者は興味深そうに見入った。

ビオクラ食養本社 体に優しい弁当どうぞ

ビオクラ食養本社(山梨)は消化吸収にかかる負担が少ない「からだに優しいお弁当」とそのレシピを配布した。

献立はひよこ豆入り玄米ご飯、高野サンド、青菜のくるみあえ、柿とかぶのサラダ、筑前煮で、エネルギーは540キロカロリーとなっている。

制作支援:北國・富山新聞社

pdfダウンロード

富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」第15回 -大腸がん-
左のサムネールからpdfファイル(620KB)をダウンロードしてください。