i-shoku.com > 医療を考える:富山県医学市民公開講座 > 「がん治療最前線」 第9回 -がんと肥満-
富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」の第9回がんと肥満(主催:医療と食の充実推進協議会、株式会社大塚製薬工場、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)は、平成21年6月14日、富山市の富山国際会議場で開催。 約380人の受講者は、がんや糖尿病などの生活習慣病と肥満の関係や原因、肥満を改善する最新の外科治療などに理解を深め、健康への意識を新たにした。
進行役を務める医療と食の充実推進協議会代表幹事で富山大学医学部第2外科の塚田一博教授があいさつ、続いて国内外で活躍し、大変注目されている内視鏡外科と糖尿病の専門家による基調講演が行われた。
大分大学医学部第1外科教授の北野正剛氏は「肥満の内視鏡手術最前線」と題し、食べ物の消化吸収を制限する外科治療の方法と効果を紹介、富山大学医学部第1内科教授の戸邉一之氏は「どうして肥満になるの?」というテーマで、さまざまな観点から肥満のメカニズムを解説した。
基調講演に先立ち、富山大学医学部第2外科助教の松井恒志氏が「がんになると痩(や)せるって本当?」、同第2外科講師の長田拓哉氏は「肥満の人はがんになりやすいの?」と題して講演した。
会場では、コンピューター断層撮影装置(CT)による内臓脂肪と皮下脂肪を比較する画像などが紹介され、最新の医療器具や病者用食品なども展示された。 野菜や大豆タンパク質、玄米などを使ったメニューの弁当が配布され、富山大学附属病院栄養管理室長の矢後恵子氏が減量へのアドバイスを送った。
今回の市民公開講座では過去最多の約380人が受講した。 がんを中心とした疾患治療や食との関連を学ぶ場として、今後も全国から専門医を講師に迎え、さまざまなテーマで学ぶ場を提供していく。
富山大学医学部第2外科助教 松井 恒志 氏
病気でやせる場合、その原因は食事の量が減る、消化器に腫瘍(しゅよう)があるなどして通過しにくい、栄養の利用が悪い、発熱による消耗や、基礎代謝の増加が考えられる。
がんは診断を受けた時点でほぼ半数に体重の減少があり、すい臓がん患者では約80%がやせる傾向にある。 しかし、乳がんや甲状腺がん、白血病についてはほとんど変化がない。
このほか、がん細胞自体が放出するインターロイキンやTNF―αなどのさまざまな物質が、脂肪やタンパク質を分解することも分かっている。 体重減少に加え、血便や血たん、黄だんを伴うときは注意が必要である。
やせてこないからまだ大丈夫だということではなく、医師の検診を受けることが重要である。 やせてからでは治療が難しくなるので、早めに診断を受けてほしい。
富山大学医学部第2外科講師 長田 拓哉 氏

食肥満になると、糖尿病や高血圧、心筋梗塞などの病気になりやすいが、がんの危険性も増す。米国で2008年に28万2,137人を対象に、がんの危険性が何倍になるか調査した結果、BMI(体重指数)が5増えると、男性の場合、食道がんになる危険性が最も高く1.52倍、女性は子宮がんが1.59倍となっている。
肥満はホルモンに影響を与える。すい臓でつくられるインスリンには血糖値を下げる効果がある。肥満で効果が薄くなり大量に分泌されると、細胞の成長を促す物質も現れ、がんを増殖させる。 閉経後の女性が分泌するアンドロゲンは、脂肪細胞が出すアロマターゼによってがんの餌となるエストロゲンになり乳がんの原因となる。 予防には食事と運動が大切で、イソフラボンの摂取と1週間あたり3~5時間の運動が望ましい。
富山大学医学部第1内科教授 戸邉 一之 氏
BMIで日本人の体格の推移を見ると、男性は10年間で20~30代が6キロ増え、女性はスリムな傾向にあるが10歳ごとに1.2キロから1.3キロ増加している。 女性は20代にやせているが、あまりにスリムな母親からは太りやすい赤ちゃんが生まれることが分かっている。
肥満は病気の認識がなく、万病のもとで、糖尿病を発症すると健康な人に比べて寿命が10年短くなる。 食欲を抑え、食生活の改善も実現しにくい。
近年、外食産業の市場規模が拡大し、その総額は医療費に匹敵するといわれる。 コンビニの商品は油が多く、深夜に食べることが肥満につながる。 入院してやせたのに、退院後にまた太る例がある。 これは食欲を抑えるホルモン、レプチンが効きにくくなっているためでないか。
運動不足の問題では、富山県は2008年まで、1人当たりの自動車所有台数が増加し、運動不足の傾向がある。 しかし、肥満のランキングでは男性が全国28位、女性26位と低いのは、魚をよく食べているためだろう。
肥満には皮下脂肪型と内臓脂肪型があり、内臓脂肪はたまりやすく消費も早い。 日本肥満学会は06年に「サンサン運動」を提唱し、体重3キロ、腹囲3センチの減少を呼び掛けている。 体重を毎日量り、早食いや味の好みを自覚し、習慣を改善することがメタボリックシンドロームの予防になる。
大分大学医学部第1外科教授長 北野 正剛 氏
満とは過剰に脂肪組織が蓄積された状態である。日本人は体重がそれほど多くなくても糖尿病を発症しているケースが多い。高血圧、高脂血症などを引き起こし、寿命を縮めることも問題である。
メタボリック症候群はウエスト周囲径だけで判断されるのではない。 男性で85センチ、女性90センチ以上を「要注意」とし、その中で血清脂質異常、血圧高値、高血糖の3項目のうち2つ以上が当てはまる場合を「メタボ」と診断する。 「メタボ予備軍」は多くなってきている。
肥満を改善する外科的治療には内視鏡を使って胃の中にバルーン(風船)を置く手術、腹腔鏡下で胃の上部を締める調節性胃バンディング術、胃の一部を切り取るスリーブ状胃切除術、胃バイパス術、小腸バイパス術がある。 最初の3つは食物摂取を抑制、後の2つは吸収を抑制する。 減量できれば糖尿病、高血圧、高脂血症もほぼ改善されている。
米国では2008年に22万例の外科手術が行われているが、日本の医療機関で実施しているのはまだ10カ所程度だ。 年に20例程度しか行われていない。 手術は簡単なので、今後広まっていくのではないか。 胃内バルーン留置術は体への負担が少なく、3カ月で約15キロの減量に成功している。
科手術の対象となるのはBMI(体重指標)が35以上の患者となる。安全で効果も高いが、まずは食事、運動、行動、薬物の各療法で減量することが望ましい。内科医と相談し、どの患者に手術をすべきかを見極めることが重要である。
富山県医学市民公開講座では、受講者から集めた質問を基に、富山大学医学部第2外科の塚田一博教授が進行役、フリーアナウンサーの柳下詩織さんが司会を務め、講師4人とパネル討論した。 肥満ががん、糖尿病などの生活習慣病に及ぼす影響について話し合った。

富山大学医学部第2外科教授 塚田 一博 氏

パネル討論に先立ち、富山大学附属病院栄養管理室長の矢後恵子さんが健康的な食事について助言した。
矢後さんは肥満にならないための食事として、「甘いものを食べ過ぎないこと、病気が起こっている人については単に1食抜くなどはだめ。 腹八分目で脂肪のみを落とし、筋肉は維持するように」と述べた。
主食とタンパク質に野菜、キノコ、海藻、こんにゃくなどを合わせ、食物繊維で吸収を調整することや、食後に果物を取ることもすすめた。
大塚製薬工場 経口補水液とゼリー紹介
大塚製薬工場(徳島県鳴門市)は脱水症状時に口から塩分や糖分を補う経口補水液「OS-1(オーエスワン)」と飲み込む力が弱い人に配慮したOS-1のゼリータイプを紹介した。
経口補水液は軽度、中度の脱水症状を改善する食事療法として使う飲料で、ナトリウム、ブドウ糖などが含まれる。
経口補水療法(ORT)を推進する「災害・救急医療におけるORT研究会」のメンバーである富山大学大学院救急・災害医学講座の奥寺敬教授は「水分を取っていても熱中症にかかっているケースが多く、ナトリウムを摂取すべき」としている。
ジョンソン・エンド・ジョンソン 手術器具、医療品を展示
医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン(東京)は医療品や腹腔鏡手術用の器具などを展示した。ガーゼ、綿などの止血剤は木材パルプを使用し、2週間程度で加水分解される。万が一、体内に置き忘れたとしても組織に吸収される構造となっている
術後、腹腔内から体液、血液などを排除するドレインチューブは塩化ビニールではなく、シリコンで作られている。断面が十字型で毛細管現象により吸引する仕組み。鼠径(そけい)ヘルニアの手術後、腹膜を補強するシート、皮膚用接着剤なども展示された。
手術用の器具は腸の自動吻合(ふんごう)器、自動縫合器、止血しながら臓器周辺の血管や組織、膜をはがす超音波凝固切開装置なども並び、来場者は最新の手術器具の安全性と進歩を実感した。
制作支援:北國・富山新聞社
富山県医学市民公開講座「がん治療最前線」第9回 -がんと肥満-
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